The Japanese Society of Veterinary Science
 
Q&A >野生動物・動物保護・仕事について
Q:将来、野生動物保護関係の職に就きたい。有利な資格と収入ついて
現在,私は獣医学部の1年生です。将来,野生動物保護関係の職に就きたいと考えています。
しかしこのような職業は少なく,兵庫県森林動物研究センター,長野県環境保全研究所,北海道環境科学研究センターなどの自治体や民間企業やNPO法人がほとんどだそうですが,これらに就職するためにどのような資格があると有利になるのでしょうか?また,それを仕事として将来,家庭を持てるほどの収入を得ることができるのでしょうか?

お答え

近年では,野生動物分野でも獣医師が活躍しています。ひとくちに野生動物といっても,「動物園・水族館などで展示飼育されている野生動物」,「愛玩動物としての野生動物」,「野外で自由に生活している野生動物」などがあり,それぞれにおいて仕事の目的や求められる技術,動物が置かれている環境は当然ながら大きく異なります。あなたは,おそらく「野外で自由に生活している野生動物」に関心があるのだろうと推察します。
さて,その「野外で自由に生活している野生動物」の中には,環境の悪化などにより個体数が減少して「保護」をしなければならない種(いわゆる希少種)もいれば,逆に,個体数増加や生息域拡大による農林水産業被害,人身被害,生態系そのものへの悪影響などの理由から適切な「管理」が求められる種もいます。
「管理」というと少し誤解があるかも知れませんが,英語ではWildlife Managementという分野に相当し,適切なManagementにより野生動物の保全と利用を両立させることを目的としています。そのためWildlife Managementでは,状況や種に応じて,個体数を増やすだけではなく減らすことも必要になることがあり,いずれの場面でも獣医師の技術や知識は活かされます。
日本では,希少種の保護だけを目的とした獣医学分野の職域は限定されているのが現状です。希少種の保護は,一般には環境省などの行政が主体となり行っているためです。ご質問にあげられているセンターや研究所などでも希少種の保護だけを業務として行っているわけではありません。むしろ,「野外で自由に生活している野生動物」を対象にする獣医師としては,後者のWildlife Managementの分野でのニーズが高まっています。この分野では,実際に多くの獣医師が公務員,民間,NPO法人などで活躍されていますので,収入として家庭を持てないということはないでしょう。
6年間の獣医学教育では,野生動物学も必須となっていることから,授業の中で野生動物分野での獣医師の職域についても知る機会があろうかと思います。
就職に有利な「資格」というよりは,野生動物が生息する自然環境に関する「生態学」を勉強しておくこと,野生動物の保護・管理の現状を勉強しておくことが将来とても有益になると思いますので,頑張って下さい。

岐阜大学応用生物科学部 准教授 淺野 玄
(2016/ 3/15掲載)

日本獣医学会事務局
officeco@jsvs.or.jp | Fax: 03-5803-7762
〒113-0033 東京都文京区本郷6-26-12 東京RSビル7階

Topページに戻る