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Q&A > 野生動物・動物保護・仕事について

Q:自宅の敷地内で疥癬症のタヌキと思われる動物が現れました。

最近自宅の敷地内でタヌキと思われる動物が現れました。
アライグマかと思いましたが、ネットで見分け方を見るとタヌキの様です。
画像添付しましたので御確認願います。
御会HPのQ&Aの「野生タヌキの疥癬症について」を読ませて頂き、私が見つけたタヌキと思われる動物も全く同じような皮膚になっています。
私は個人で外猫の世話や保護・避妊活動・里親探しをしており、病気の猫に薬を与えたりもしています。
猫や犬の疥癬症に「レボリューション」が効くと獣医から勧められ試したところ、確かにかなりひどい疥癬症の猫もきれいに治りました。
出来ればそのタヌキと思われる動物にも投与したいのですが、効果はありますか?
又そうした行為はせずに自然に任せた方がいいのでしょうか?
ちなみにそのタヌキと思われる動物は近寄ると逃げますが、遠くまでは行きません。人から餌を貰っていたのか、こちらに危険性がないと分かると寄ってきます。
餌を食べさせている間に薬を投与することはできそうですが、餌やりの行為は良くないでしょうから、やはり見守るしかないのでしょうか。
また,こちらは名古屋ですが病気の野生動物を保護してもらえる機関はありますか?

 

たぬきの写真

お答え

写真で見せて頂いた動物は、タヌキで、疥癬(カイセン)に感染していると考えられます。

  1. 疥癬症タヌキに市販の外部寄生虫駆除剤を投与して効果があるか?
     効果があるかないかだけで言うと、原因が疥癬(カイセン)であれば、例に挙げられた製品で一定の効果は認められると思います。ただ、他に原因があったり、細菌の二次感染が起こっているなど重度の場合には、十分な効果が認められない可能性もあります。
     しかし、以下の質問内容と重複しますが、すでにお気づきのことと思いますが、第一に、病気になった野生動物を治療することがどこまで必要かを考えるべきです。

  2. 治療行為は行わずに、自然に任せた方がいいのか?
     人は、傷ついたり病気になった野生動物を保護して助けたいと思います。救護活動は、各地で活発に行われ、野生動物に関心のある学生に最も人気が高い“野生動物に関わるきっかけ”の活動の一つになっています。
     しかし、一方、現場では、従来からある、救護個体の収容スペース、人員、費用などの問題の上に、さらに高病原性鳥インフルエンザなど野生動物・家畜・人の間の共通感染症、外来生物問題などさまざまな新しい課題が山積してきています。
     また、希少種を除いては救護そのものを問題視する議論が高まってきています。まず、(1)窓ガラス衝突で後遺症がない場合など短期経過で放野された症例を除き、傷つく前の状態に回復させることは困難な場合が多いです。また、(2)人為的要因が多いとはいえ、救護される個体は、同種の他の仲間と比べて環境適応力が低いとも考えられます。(3)発信機を装着して追跡調査を行わない限り、放野後“自然復帰”を果たせたかどうか、を知ることは難しいため、救護の効果は自己満足的になりがちです。さらに、(4)長期間に及ぶ治療やリハビリのための入院期間で起こりうる人慣れのため、再び人災に巻き込まれたり、人との軋轢を引き起こしたりする可能性もあります。(5)放野場所の選定や入院期間の長期化によっては、先住個体との競合が起こりうるし、人間社会から自然界に感染因子を持ち出す危険性もあるのです。
     人と野生動物の軋轢の複雑化・多様化に伴い、鳥獣被害関連を中心に環境行政予算はひっ迫しており、救護に人員や費用を投資することが問題視され始めています。

    今回のタヌキの場合も、上記の(2)に関連し、他個体に比べて免疫力が弱い可能性があり、本来は淘汰された方が他個体に及ぼす影響が少なくなるとも考えられます。上記(3):元々、免疫力が弱くて感染・発症したのであれば、治療してもまた同様な状態に陥る可能性があります。上記(4):保護して治療した場合、その間に人慣れさせ、人との軋轢を生じやすい性質を持った個体になる可能性があります。上記(5):放野後に他個体に影響を及ぼす可能性もあります。

  3. 餌やりの行為は良くないから、やはり見守るしかないのか?名古屋には病気の野生動物を保護してもらえる機関はあるか?
     野生動物への餌やりは、野生動物の行動生態を改変、人慣れなど人との軋轢を引き起こす、野生動物・家畜・人の間の共通感染症の発生リスクを高める、周辺環境を汚染する、などの問題を発生させる、など環境問題として捉えることができます。
     人が野生動物に餌を与えることで、キツネの交通事故、サルの人慣れよる傷害事故、スズメの餌台における感染症による大量死などが発生しております。人と野生動物のお互いが快適で幸せな環境と社会を作っていくため、私たちが暮らし方を考えなければなりません。

    名古屋で傷ついた野生鳥獣を見つけたときは、以下の通り、名古屋市ホームページに紹介されていました。
    『野生鳥獣をみつけたときは、そのままそっとしていただきますようお願いいたします。なぜなら、「鳥獣保護及び狩猟の適正化に関する法律」の考え方に「自然は自然のままに」という考えがあり、むやみに人が手を加えると、本来あるべき生息数や自然界のバランスが変わってしまう可能性があるからです。しかし、どうしても保護したいということであれば次の方法でお願いいたします。
    (1)お近くの動物病院に相談する
    (社)名古屋市獣医師会に登録している動物病院に傷ついた野生鳥獣の取り扱いを無料で相談することができます。お近くの動物病院は緑政土木局農業技術課が紹介いたします。なお、動物病院に野生鳥獣を持ち込み、治療行為が行われたときの治療費等は持ち込んだ方のご負担になりますのでご注意ください。
    (2)弥富野鳥園に引き取っていただく(鳥類のみ)』

  4. 外猫の世話や保護・避妊活動・里親探しについて
    今回のご質問内容ではありませんが、余談としてお話させて頂きます。
    外猫が野鳥などの野生動物を捕食したり、感染症を媒介したり、また、他人の庭に糞をするなど自然界や人間社会に悪影響を及ぼすことがあります。実際に、対馬では、ノラネコ由来の猫免疫不全ウイルスが絶滅危惧種ツシマヤマネコに感染して拡がる可能性が指摘されており、積極的な対策が行われています。
    自然界や他人への配慮から、飼い主の責任として猫を屋外に放すべきではなく、周りに迷惑をかけないペットの終生飼育を第一に進めていく必要があると考えます。

福井大祐(旭川市旭山動物園 獣医師)

日本獣医学会事務局
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〒113-0033 東京都文京区本郷6-26-12 東京RSビル7階

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