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Q:エゾ鹿のトライプでエキノコックスに感染する危険性はあるか。
エゾ鹿のトライプでエキノコックスに感染する危険性はあるか。

お答え

エキノコックス症の主要な病原体(寄生虫)は、単包条虫と多包条虫に分かれます。このうち北海道で流行しているのは多包条虫で、単包条虫はわが国での流行はみられません(散発的な事例の発生はあります)。鹿を含む反芻類は単包条虫の幼虫(単包虫)が寄生し、それを食した犬や狐などの肉食獣が感染し、幼虫から成虫になり、糞便中に虫卵を排泄します。一方、北海道で流行している多包条虫の幼虫(多包虫)は齧歯類に寄生し、それを食する犬や狐などの肉食獣が感染します。従って、ご質問のエゾ鹿については、単包虫が感染する可能性がありますが、①北海道を含むわが国では流行が認められないこと、②単包虫は主に、肝臓、肺臓に寄生し、一般的に筋肉には寄生しないものと考えられている、以上2点の理由から、わが国では、エゾシカの肉、あるいはトライプを犬が食することによりエキノコックス(単包条虫、多包条虫)に感染する可能性は極めて低いと思われます。
しかしながら、わが国でも散発的に、単包虫症の発生(輸入感染症を含む)が認められています。海外では、鹿への単包虫の感染も報告されています。また、エキノコックスとは別の寄生虫ですが、特に猪に感染が認められるものとして、肺吸虫(ウェステルマン肺吸虫、および宮崎肺吸虫)があります。わが国では、北海道を除く全国に広く分布しています。猪への感染源となるのは、サワガニなどの淡水産カニに寄生している幼虫です。従来、鹿は草食獣であることから肺吸虫には感染しないものと考えられていましたが、近年、わが国でも鹿から肺吸虫の幼虫が発見されることが報告されています。これらの肺吸虫は、犬にも感染することが報告されていますので、特に本州では、注意が必要です。
一般論として、鹿や猪などの野生動物には、どのような病原体、寄生虫がどの程度分布しているのか、これまでに十分な評価がされていません。現時点では全く想定されていない何らかの病原体が存在している可能性も十分考えられます。このような現時点で想定されていない、未知(あるいは既知)の病原体について、「人には感染するけど、犬には大丈夫」といえる根拠はどこにもありません。実際におこった代表的な例として、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)が挙げられます。2011年に中国で初めて報告され、2013年1月にはわが国で初めての人の患者が確認されました。それ以前には全く想定されていない感染症でした。しかしながら、現在では犬や猫にも感染し、これらのペットを介して人に感染した事例まで報告されています。このようなことから、野生動物の肉を生で食することは、人も、動物に対しても同様に安全が完全に保証されるものではありません。

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日本大学生物資源科学部
教授 壁谷英則
(2018/12/7 掲載)

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