現在、牛、馬、豚などの産業動物診療に携わっている獣医師は全国で約4,000人おります。その中で農業共済組合などの団体職員として勤務している獣医師が1,800人位、残りは個人開業医ですが、全国的には漸減傾向にあります。農業共済組合組織が充実している北海道、千葉県、山形県などでは多くの獣医師は組合職員ですが、そうでない県では個人開業医が中心になります。毎年、獣医学部や獣医学科を卒業した80~90名の方が産業動物分野に進みますが、当初、その大部分は農業共済組合に就職します。
産業動物の問題点は、グローバル化に伴い牛肉、豚肉、鶏肉、乳製品などが外国から低価格で流入しており、国内でもコスト削減を図るために経営規模の拡大、企業化が一段と進んでいます。その流れに適応できない農家もありますので家畜の飼養頭数は漸減しています。そのような状況の中で生き残っている畜産農家は、家畜の疾病を予防する飼養管理や衛生管理は勿論のこと、家畜を繁殖・育成するための快適な環境整備、従業員教育、生産物の流通まで徹底した経営戦略を追求しております。従って、産業動物獣医師が畜産農家から求められるものは従来の個体診療技術に加え、付加価値のある畜産物の生産に繋がる群健康管理技術や快適環境整備などのコンサルティングまで広範囲に及んでおります。今後、畜産農家が利益を得られる経営を獣医師がいかにサポートできるかが問われるとともに、産業動物獣医師の役割は益々増大していくものと思われます。
日本大学教授 津曲茂久