(質問1:貴学会ではアメリカでの発表をどのように受け止められていらっしゃいますか。また、飼い主は、どのように考えたらいいのでしょうか。)
キシリトール中毒についての質問ですね。確かにキシリトールによるイヌの中毒例が報告されており、米国ではキシリトールの使用に注意するように呼びかけられています。日本ではキシリトールによる症例はわずかで(1例)、まだ大きな問題としてとらえられていません。
キシリトールにはヒトおよび実験動物に対する毒性はほとんどありません。しかし,次の条件が揃った場合は,重篤な症状を起こす可能性があります。1) シュガーレスのガム,ケーキ,菓子類で,キシリトールを甘味料に使っている場合。2) キシリトール含有量の高いものではチューインガム1〜2枚の摂取でも起こりえます。 ただし,他にブドウ糖源がある場合は比較的起こりにくいようです。
これには,ヒトとイヌの代謝・感受性が異なることが関係します。キシリトールと砂糖の甘味は同程度ですが,キシリトールにはヒトでは血糖値上昇やインスリン分泌促進作用がほとんどないので,砂糖の代用が可能です。しかし,イヌではキシリトール投与後(経口および注射),著明なインスリン分泌促進作用がみられます。その結果,インスリンの強力な作用により逆に血糖値が急激に減少し,低血糖症状が起こります。その症状はキシリトール自体の毒性ではなく,低血糖による症状です。
治療にはブトウ糖の点滴や食餌をこまめに与えるなどの処置がとられますが,虚脱や糖への無反応状態に陥ると生命の危険があります。
最近、わが国においても動物用のケーキや菓子類が増えているので、今後こうした事例が増える可能性が十分考えられます。したがって,ヒトに安全なものでも動物には危険なものもあるので,安易に与えてはならないことを獣医師や飼い主に知らせる必要があると思います。
(質問2:犬にはキシリトールはもともと不要(虫歯にならない)という意見を読みましたが本当ですか?)
確かに犬はほとんど虫歯になりません。これには唾液などによる口腔内のpHが関係すると考えられており,キシリトール使用の必要性はあまりないように思われます。
(質問3:犬用のお菓子やフードの毒性については,行政のどこが監視・管轄しているのでしょうか?)
現実問題として行政によるフードなどの規制は行われていません。業界による自主規制がありますが,罰則はありません。ただし,PL法など一般的規制は受けると考えられます。
(質問4:万が一,キシリトール(だけでなく,フードやお菓子に含まれる物質)で,何か障害がおきた場合,飼い主はどうすればいいのでしょうか。)
緊急治療を要する場合は,専門医(獣医師)に状況を詳しく伝えて,診てもらうことが必要でしょう。それ以外の場合,近くの獣医師会に相談してみてはいかがでしょうか。
岩手大学 鈴木忠彦