どこからお答えしたらいいのか迷ってしまいますが、まず日本の状況を説明しておきます。現在、日本には、いわゆる野生動物保護(管理)官と呼ばれる国 家公務員はおりません。各国立公園にレンジャーと呼ばれる環境省の管理官はいますが、仕事内容としては、欧米でみられるような野生動物を調査研究し、人と動物の軋轢を軽減するよう管理する、ところからはほど遠いものです。しかし、最近少しずつですが、各県(場合によっては市町村)で野生動物の専門家を雇い、調査研究や保護管理を担うポストを作るところが増えています(例えば、北海道環境科学センター、知床財団、岩手県環境科学センター、長野県環境保全研究所、兵庫県立人と自然の博物館、など)。それだけ人と野生動物の軋轢問題は大きく、専門家でないと対応できないことがわかってきたのでしょう。昨年のクマ出没問題などはその典型だと思います。
一方、諸外国では、アメリカ合衆国、カナダ、アフリカの国立公園などでは、国または州政府に野生動物保護管理官と呼ばれる専門家がいて、野生動物の科学的な管理を行なっています。大学にも、そのようなカリキュラムやコースがあって、野生動物専門家になるための教育体制が整っています。日本からも留学する人が最近増えています。ただし、日本人がこれらの教育を受けたからといって現地で野生動物保護管理官のポストに就くことは極めて難しいことだと思います。結局は、職となると日本で求めなければならないので、必ずしも外国で勉強することがいいとは言い切れないと思います。
翻って日本での野生動物保護管理官になるための教育システムはというと、残念ながらほとんどないのが現状です。いくつかの大学にある(例えば理学部や農学部の)動物学コースを学んできたものが、その延長線上で保護管理の仕事に就くというのがこれまでの実態だろうと思います。獣医学の中では、最近野生動物医学という学問が台頭してきて、日本野生動物医学会(事務局:岐阜大学)という学会もでき、最近この学会主催の学生向けサマーショートコースなど、 教育コースも設定さ れています。
野生動物保護管理官の仕事は、必ずしも獣医学の貢献だけで済むものではありま せんので、生態学や動物学、環境科学など幅広い知識と経験が必要だと思います。
どの道を選ぶかは個人の考え、向き不向きや経済状態などによって違ってくると思 いますが、獣医学(野生動物医学)も野生動物保護管理に必要とされている学問分野の一つであることは間違いありません。
岐阜大学応用生物科学部獣医学講座
坪田 敏男