獣医学に興味を持っていただき,ありがとうございます。
獣医師は,小動物臨床,産業動物臨床,公衆衛生,家畜衛生,環境衛生,動物福祉・愛護,バイオメディカル,海外支援活動関係,野生動物関係等,さまざまな分野で活躍しています。
あなたの考えている「一対一で患畜に向き合うことの多い獣医師」は,おそらく小動物臨床の獣医師をイメージしているのかと思います。小動物の獣医師であっても,診療している時点では動物と一対一の関係ですが,一年を通してみると多くの動物やその飼い主あるいはその家族の方達と関わることになりますし,獣医師会という組織では,地域や全国レベルで様々な社会活動を行っていますので,むしろ多くの動物や人と関わることが多いといえます。また,獣医学の中には,ハードヘルス学という学問分野もあります。このハードヘルス学は,牛や豚などの生産動物を集団「群」として取り扱い,そこで発生するさまざまな疾病を未然に防いだり,適正な生産管理を目指すための学問です。
近年,動物の健康,人の健康は一つであり生態系の健全性の確保につながる新たな理念として「One World,One Health」が各国で提唱されるようになっています。これは,「世界は切り離すことのできない緊密さで繋がっており,人,動物,環境を含めた健康の維持には1国だけでなく地球規模で対応する必要がある」という概念です。従って,適正な人と動物の相互関係,適切なリスク管理,人獣共通感染症や感染症以外の疾病制御には,これまでのように個々の専門分野が独自で対応するのではなく,医学や獣医学,あるいは野生動物学,生態学,環境科学等の分野が連携して問題解決に当たっていく必要があります。「One World,One Health」の実践には,獣医師の協力がなければ不可能であると言っても過言ではありません。あなたの言う『持続可能な循環型社会の実現』というものが,具体的にどのようなものを指すのか分かりませんが,獣医師こそ,動物や人の健康を俯瞰できる職業分野であるといえます。
日本獣医学会広報担当理事 丸山総一
2014. 5. 26