■お答え
こんにちは。ご質問にお答えさせて頂きますが、一人の獣医師の意見として参考になれば幸いです。
「獣医師」という国家資格は、単なる手段であって、目的ではありません。獣医学部に入った全員が獣医師を目指すわけではありません。中には、小学校の教員を目指す人、マスコミ関係の職業に就く人、プロスキーヤー、などさまざまです。
小学校の教員は、自分の生徒に動物の命の尊さを伝え、結果的に「動物を助ける」人間の心を育てるでしょう。また、マスコミ関係の職について、自然界で起こっているさまざまな環境問題や野生動物の現状について社会に広く伝え、野生動物の保護活動を起こすきっかけを作ることができるでしょう。
といったように、どのような職業に就いても、いろんな手段を用いて「動物を助ける」ことは可能だと考えます。
次に、獣医師として獣医学的知識や技術を活用して「動物を助ける」手段についてお話します。以下に、すべての手段について書き切れませんが、代表的なものを整理することにします。
- 動物園獣医師:これは私の現在の職業ですが、動物園の飼育動物の健康管理が主な仕事なので、毎日彼らの命を助けられるよう頑張っています。動物園は、来園者に動物のすばらしさや命の尊さなどを感じてもらい、彼らを守っていきたいという心を育てる施設であるべきです。他に、傷ついて保護されてきた野生動物の治療を行い、野生に復帰させたり、野生に帰せなかった個体を展示、繁殖、研究、教育などさまざまな活動に活用したり、野生動物の保護に活かす努力をしています。動物園の動物から得られた貴重なデータや卵・精子などの細胞も彼らの保全に役立てることができます。また、フィールドに出て野生動物の調査研究を行い、その周囲環境の健康状態を評価することも行っております。在来種の命や農業被害に遭っている人の生活を守るため、外来種を防除する(捕獲後安楽殺)活動にも携わっております。その可能性は無限大です。
- 小動物・大動物の臨床獣医師:ペット・家畜は、野生動物とは異なり、人が創り出した動物ですので、飼い主の責任として愛情を持って世話をしなければなりません。一方、野生動物は、人が世話をしなくても自分でたくましく生きています。野生生物を捕獲して飼育する人もいますが、(こどもたちが昆虫や魚を捕まえて飼うのとは異なり)海外から希少な野生生物が密輸されるなど好ましいことではありません。
家畜・ペットの診療を行い、その健康を守り、命を助けることがその主な仕事です。動物の命を助けるため、全力で治療に当たりますが、状態や予後が悪いとき、主治医や飼い主の判断によって、特に産業動物では、安楽殺を選択することも起こってきます。このときの残念な想いは、次の命を救う力になります。
- 製薬会社・動物実験施設の獣医師:私たち人間が医療を受けて健康でいられるのも、動物たちの犠牲の上に成り立っています。現在では、動物実験に対して最大限の配慮がなされていますが、動物たちへの感謝を忘れてはなりません。「動物を助ける」ためには、人間の健康はもちろん、動物に使える薬の開発も必要ですね。
- 家畜保健衛生・食肉衛生施設の獣医師:私たち人間がハンバーガー、アイスクリームやヨーグルトを食べられるのも、家畜の健康を守る臨床獣医師に加え、その検査や検疫などに関わる獣医師のおかげです。食の安全、家畜の健康、まさに「人や動物を助ける」仕事です。
- 大学研究機関の獣医師:さまざまな分野で活躍する獣医師を教育したり、動物や人の感染症について研究したり、野生動物保全のための調査研究を行ったり、特に学術面で大きな貢献を行っています。「動物を助ける」ために、必要な最先端の知識や技術を積極的に生み出しています。
以上のように、本人の気持ちさえあれば、どの職種でも「動物を助ける」活動を進めることができます。要するに、あなた次第です。「獣医師」という手段も活用して動物を是非助けてください。時には、動物の命を犠牲にする必要があると判断されれば、より多くの命を助けるためにしっかり活かすことが自分の責任です。あなたの夢を応援しています。
福井大祐(旭川市旭山動物園 獣医師) |