人獣共通感染症 第109回
エボラ出血熱に関する最近の話題:ウガンダのエボラ出血熱、エボラワクチン

霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第109回)1/8/01
エボラ出血熱に関する最近の話題:ウガンダのエボラ出血熱、エボラワクチン

ウガンダに発生したエボラ出血熱

 エボラ出血熱は、1976年にザイールとスーダンに出現して以来、1995年にはザイールのキクウイトで世界を騒がした大流行を起こし、ついで95年から96年にかけてガボンで流行を起こしました。そのほか散発例がいくつかあり、WHOによると、全部で1100例近い患者が発生し、793名が死亡しています。20世紀末になって、今度はウガンダで大きな流行を起こしました。その経緯を簡単に整理してみます。
 2000年9月から、ウガンダの首都カンパラKampalaの360キロ北にある人口15万人の都市グルGuluの周辺で出血熱の患者が発生しはじめ、10月16日、南アフリカの国立ウイルス研究所でPCRによりエボラ出血熱であることが確認されました。
当初、人々はコンゴ(旧ザイール)で感染したウガンダ兵士が流行の原因と疑っていました。しかし、分離されたエボラウイルスはザイール株とは異なり、1976年と79年にスーダンで流行を起こしたウイルスに非常に近いものでした。
 そこで、今度は別の推測が生まれました。13年にわたってウガンダ政府に抵抗している反乱軍がスーダン南部に本拠を置いていて、しばしばグルを攻撃しています。彼らがウイルスを持ち込んだという推測です。しかし、分離ウイルスはスーダン株に近いとはいっても、まったく同一のものではありません。スーダン由来であるという証拠もありません。
10月末に、カンパラの南西280キロの商業の町ムバララMbararaでエボラ出血熱による死亡者が見つかりました。グルの兵舎に居た兵士でした。11月半ばには、カンパラの北西300キロのマシンディMasindiの町に4名のエボラ出血熱の患者が発生しました。この4名はすべて同じ家族のメンバーでした。感染源はグルの病院に胃腸病で入院していて、そこから逃げてきた家族の一員の女性でした。こうして、ウガンダの3つの地域でエボラ出血熱が発生し、いまだに続いています。
 12月末の時点でグルでの患者は394名、そのうち149名が死亡、マシンディでは27名が発病し19名が死亡、ムバララでは5名が発病し4名が死亡しました。合計426名の患者で172名が死亡したことになります。

エボラワクチンの開発

 自然宿主が不明のエボラウイルスはいつまたどこで発生するか、予想はつきません。治療薬のないエボラ出血熱対策に、ひとつの朗報が2000年11月にもたらされました。遺伝子工学を利用したワクチンの開発のニュースです。
 これは米国国立衛生研究所NIHのワクチン研究センターVaccine Research CenterとCDCの共同研究で、その成績はネイチャー誌(11月30日号、Vol. 408, 605)に発表されました。ワクチンはDNAワクチンとベクターワクチンという、ふたつのタイプのワクチンの併用です。 
 普通、ワクチンはウイルスそのものの活性を失わせた不活化ワクチン、または病原性を弱めた弱毒ワクチンであって、その素材にはウイルス粒子全体またはその一部が用いられています。これらとは異なり、DNAワクチンは、ウイルスのDNAを直接、筋肉内に注射し、それが動物の身体の中でウイルス蛋白質を作ることができるようにデザインしたものです。いわば裸のDNAそのものがワクチンとなります。この研究ではエボラウイルス・ザイール株の糖蛋白遺伝子DNAが用いられています。一部の試験では種々のエボラウイルス株に反応できるように、核蛋白NP遺伝子DNAを加えたり、また、ザイール株のほかにコートジボアール株とスーダン株の糖蛋白遺伝子も混合させたものが用いられています。ただし、攻撃試験はザイール株の代表であるマインガ株で行われています。
 ベクターワクチンは、ウイルスの一部の遺伝子を運び屋(ベクター)となる別のウイルスに組み込んで作ります。エボラワクチンでは、増殖能力を失わせたアデノウイルスがベクターとして用いられています。これは本来、遺伝子治療用に開発されたもので、これにエボラウイルス糖蛋白遺伝子を組み込んでいます。これを接種するとアデノウイルスは感染を起こしてアデノウイルス蛋白とともに、エボラウイルス糖蛋白も産生します。この糖蛋白がワクチンとして働くわけです。アデノウイルスは増殖しませんので、病気を起こしたりほかの人への感染を引き起こすこともありません。
 ワクチンの接種方式としては、まず、DNAワクチンで初回免疫を与え、ついで、アデノベクターワクチンで追加免疫を与えるという二段階免疫が用いられました。この方式のワクチン接種をモルモットとカニクイザルに行い、その後でエボラウイルス・マインガ株を接種した結果、これらの動物はまったく発病せず、一方、ワクチン接種を受けなかった動物は死亡しています。致死的感染に十分な防御効果を示したわけです。まだ、実用化までには長い道のりかもしれませんが、新しい展望が開けてきたことは間違いありません。
 このワクチンをどのように用いるかが次に問題になると考えられます。非常に限られた地域で突然発生するエボラ出血熱ですので、多数の住民へのワクチン接種を行うことは現実的ではないかもしれません。しかし、すくなくとも患者に接する医療従事者など、ハイリスクの人には大いに役立つことが期待されます。さらに、自然宿主の動物が分かれば、それらに接する機会の多い人への接種が可能になります。ワクチン開発と並んで自然宿主の解明が根本的対策として必要です。

 

Kazuya Yamanouchi (山内一也)



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