人獣共通感染症 第101回追加
「異種移植ガイドライン(米国食品医薬品局)」の修正と追加 「修正」

霊長類フォーラム:人獣共通感染症(第101回追加)7/28/00

「異種移植ガイドライン(米国食品医薬品局)」の修正と追加 「修正」

「修正」

Secretary's Advisory Committee on Xenotransplantation (SACX)を「公衆衛生総局」長官異種移植諮問委員会と訳しましたが、これは「保健・福祉省」長官異種移植諮問委員会です。略語表をみましたらSecretary of Health and Human Service(保健・福祉省長官)の諮問委員会でした。ガイドラインはPHS :Public Health Service(公衆衛生総局)のものですが、ここには長官はいません。


「追加」
前回は序文のみで、ガイドラインの本体は膨大なためにご紹介しませんでした。追加として、ガイドライン本体の中で、ごく一部ですが興味のある部分をピックアップしてみます。断片的なメモの形にしたため、「すべきである」という表現はほとんど削除しました。多面的に問題点をとりあげていることがお分かりいただけると思います。


異種移植レシピエント:暫定的安全対策として、全血液、白血球やプラズマなど血液の一部、組織、母乳、卵子、精子などの提供は一切差し控えるべきである。レシピエントと体液の密接な交換のある接触者、セックスの相手、ひげ剃りや歯ブラシを共有する家族、直接レシピエントに頻回接触する医療従事者なども同様である。


動物福祉:動物福祉法にしたがうこと。国際実験動物認定基準(Association for Assessment and Accreditation of Laboratory Animal Care International: AAALAC International)に適合した動物施設であること。

異種移植製剤のスクリーニング:細菌、カビ、マイコプラズマは直接培養でスクリーニングする。さらにユニバーサルPCRプローブでの微生物の検出を試みる。

動物についての医学的記録は移植実施後50年間は保存する。 監視プログラムの一部として、コロニーを代表する動物をランダムに選び定期的に血清を採取し、微生物感染のテストを行う。テストの結果とサンプルは採取後50年間保存する。

供給源(ドナー)候補の動物について検疫期間中に、獣医による健康診断、感染性因子(細菌、カビ、寄生虫、ウイルスなど)のスクリーニングを行う。これらのテストは臨床に使用するまでに成績が得られることを配慮した上で、移植の日になるべく近い時期に行う。 たとえば消化管のような場所に感染性因子が存在しても、それが異種移植製剤の中に存在していなければドナー動物としての使用を妨げるものではない。

異種移植用に動物の細胞、組織、臓器を採取する際には、プラズマを採取し十分量を血清試験とウイルス試験用に保存する。さらに凍結白血球の保存バンクを設ける。供給源動物の臓器のホルマリン固定組織、凍結組織も望ましい。

最終的に異種移植用の供給源動物と「おとり」動物を廃棄する問題、とくに食用動物の場合の問題が予想される。一般的にこれらはペット、食肉やミルクのような人の食品、ほかの動物の餌に利用するべきではない。

動物の種類によっては人の食用やレンダリングによる餌としての使用が安全な場合もあるかもしれない。この場合はFDAのCenter for Veterinary Medicine獣医センターに相談すること。

保存用のレシピエント・サンプルの採取は、(1)異種移植前に1ヶ月間隔で2回。そのうち1回は異種移植の直前。(2)異種移植直後と約1ヶ月後と6ヶ月後。(3)最初の2年間は毎年。(4)その後、5年に1回ずつ生涯。

レシピエント死亡時には凍結保存サンプル、パラフィン包埋組織、電子顕微鏡用組織を解剖時に採取すること。これらは採取後50年間保存。

レシピエントからの臨床サンプルの取り扱いはバイオセーフティ・レベル(BSL)2の封じ込めおよび作業手順で行う。レシピエントから分離した未知の感染性因子を扱う時はBSL2の施設で、BSL3手順で行う。

(注:日本では各レベルに封じ込め施設と手順がすべて含まれています。米国のガイドラインでは封じ込め施設と手順について別々にレベル分類が行われています。たとえばヒト免疫不全ウイルスの動物実験は日本ではBSL3ですが,米国ではBSL2の実験室内にBSL3用のキャビネットを入れるという方式です)。

免疫抑制処置を受けたレシピエントでは抗体により感染を検出することができないかもしれない。このような患者では、培養、遺伝子検出などの方法が必要である。未知の病原体の評価のためのアルゴリズムを専門家と相談して作っておくこと。

異種移植前に動物の組織や臓器を取り扱う医療従事者の感染リスクは、供給源動物に日常的にさらされている動物飼育員、獣医師、と場従業員と同等の安全対策を講じていれば、これらの人たちのリスクを上回るものではない。

国の異種移植データベースに関する試験的プロジェクトが進行中である。これが将来、十分に機能しうるデータベースに拡張されることが期待されている。法律で許される範囲内で、プライバシイを守った上で、データベースは一般利用可能になるであろう。

長官異種移植諮問委員会は現在、保健・福祉省により運営されている。ここでは、進行中のプロトコール、申請されるプロトコールを含む異種移植に関するすべての問題が検討される。また、一般討論のためのフォーラムも開催する。

Kazuya Yamanouchi (山内一也)




 




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