公益社団法人日本獣医学会 The Japanese Society of Veterinary Science

人獣共通感染症 連続講座 第115回追加(03/13/2001)


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プリオン病の診断キットの開発競争

 ネイチャー・メディシン3月号に変異型CJDの血液試験のニュース、より高い感度のBSE試験についてのニュースと、プリオン病マーカーになるかもしれない新しい研究成績が発表されています。それらを中心に、ほかからの情報も加えて追加したいと思います。

1. 変異型CJD試験
 この領域のベンチャーとして、Prion Developmental Laboratories IncとCaprion Pharmaceuticalsが紹介されています。どちらも前回のリストにあります。
 前者はロバート・ギャロRobert Galloが主任研究員になっています。彼はHIV研究の第一人者ですがプリオン領域に参画したわけです。後者はカナダの企業で異常プリオン蛋白質に特異的に反応する抗体を作り、そのライセンスを米国の獣医検査企業であるIDEXX Laboratoriesに渡されたとのことです。
 この種の抗体はプリオニクスの設立者であるブルノ・エッシュBruno Oeshが以前に論文で発表していますが、現実にはプリオニクスはこの抗体ではなく、正常プリオン蛋白質、異常プリオン蛋白質両方に反応する抗体を用いています。
 興味のある点としては、変異型CJDの血液にもしもプリオンが出てくるとすればプラスミノーゲンにたまるというチューリッヒ大学のアドリアーノ・アグッチAdriano Aguzziの発想です。この技術を彼は企業にライセンスを渡したと伝えられています。

2. BSEの試験
 ここでは113回講座でご紹介した4社のうち、バイオラド(フランス原子力委員会)、プリオニクス、エンファーがECで承認されています。前回触れたようにバイオラドはとくに感度が高い点を強調していますが、一方で擬陽性の結果が多いという問題があるようです。
 今のところ、プリオニクスが一番売れているようです。スペインでは先月までは免疫組織検査によるプリオン検査のサンプルは英国まで送っていましたが、BSE牛が見つかったことから世論が高まり、自分のところで検査することになりました。その結果、プリオニクスのキット546,000セット分の予算が議会で承認されたと伝えられています。ともかく、昨年11月末にドイツでBSE牛が見つかってからプリオニクスのキットの売れ行きは非常にのびているとのことです。

3.プリオン病の診断マーカー
 この成績はネイチャー・メディシン3月号(p. 361, News& Views p. 289)にロスリン研究所のグループから発表されたものです。
 これは脳ではなく、リンパ組織に焦点を合わせて正常なマウスとスクレイピーのマウスの脾臓で発現している遺伝子転写物を比較した研究です。約1万個の転写産物のスポットのうち、1つだけがスクレイピー発病マウスで非常に量が著しく少なくなっていることを見いだしました。コンピューター検索の結果、この遺伝子配列は最近見つかったばかりの赤血球分化関連因子(Erythroid differentiation-related factor: EDRF)と完全に一致しました。
 このEDRFの発現量の低下はスクレイピー発病マウスの脾臓だけでなく、スクレイピーの羊の血液とBSE牛の骨髄でも見つかっています。EDRF がプリオン病の発病にかかわるかどうかは、今のところ不明ですが、これが診断の分子マーカーになるだろうと述べています。これですと、血液材料でしかもきわめて簡単に測定できる利点があります。
 EDRFが病気に関係あるかどうかは、今後、この遺伝子のノックアウトマウスや過剰に発現するトランスジェニックマウスで研究されることになるでしょう。