The Japanese Society of Veterinary Science
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Q:犬、猫に生の鹿・猪肉を与えてよいか
私は,都内で鹿・猪の冷凍生肉を犬・猫向けに販売しています。これまで各種感染症の心配から,飼い主には与える際には加熱するようにと説明してきました。仕入れの業者からの指導も同様でした。
犬もE型肝炎に感染するか」の記事では,E型肝炎にはならないというように書いてありますが,それは猪・鹿肉共に生で動物に与えて大丈夫,ということでしょうか?また,猫の場合はどうでしょうか?
そして,他に感染する心配はないのでしょうか?
最近,手作りや生食を好まれる飼い主さんが増えてきましたので,彼らに説明できるように詳細を教えていただきたく質問させて頂きました。

お答え

まず,結論から申し上げて,「ヒトも,犬や猫等の動物も生食は厳禁」です。是非とも,飼い主の方にもこの点は徹底してご説明いただきたいと思います。次に,この根拠ですが,主に以下2点が挙げられます。

1)「感染はするが,肝炎の発症は認められていない」ことの解釈について
 "E型肝炎ウイルスによる感染"と"E型肝炎発症"を区別して理解する必要があります。先の記事にもある通り,日本を含め海外の研究において,「犬から抗HEV抗体が検出された」ことが報告されています。「抗体が検出される」ことは,犬の体内でE型肝炎ウイルスによる感染が成立することを現していますので,実験感染をした個体で,肝炎の症状は認められなかったことは,「感染はするが,臨床症状を示さない」ことを意味します。
 ただし,動物で肝炎の臨床症状を「示さない」ことを証明することは,非常に難しく,今後の研究を待たねばなりません。今後,E型肝炎を発症した犬や猫が見つかる可能性も否定できません。また,インフルエンザ等で知られているように,ウイルスの性状が変化(変異と言います)し,犬や猫にも肝炎を引き起こす可能性も考えられます。

2)生食の危険性は,E型肝炎だけではない
 鹿・猪の肉が,豚や牛などの家畜の肉と異なる点は,①生産段階において,飼養・衛生管理が全くされていないこと,②食肉に加工する段階で,獣医師による検査が行われていないこと,などが挙げられます。このため,鹿や猪などの野生動物が,どのような病原体がどの程度保有し,感染しているかを保証する手段がありません。現在,鹿や猪にどのような病原体がどの程度いるのか,国内外で調査・研究が進められているところです。これまでの研究から,猪ではE型肝炎以外に,サルモネラやカンピロバクターなどの食中毒細菌が検出されることが報告されています。また,実際に,鹿肉を原因としたヒトのO157食中毒事例が国内外で報告されていますし,肝蛭や住肉胞子虫などの様々な寄生虫感染が極めて高率に認められています。このような寄生虫感染症が犬や猫のみならず,ヒトに対してどのような病原性があるのか,まだ十分に解明されていません。先に説明したとおり,野生動物が保有する様々な微生物や寄生虫が犬・猫や人に対して病原性が「無い」ことを証明するのは非常に困難です。鹿・猪の生肉に少なからずリスクがある以上,各種感染症の発生を防止するために,「生食の厳禁」は必要であることをご理解いただきたいと思います。

日本大学生物資源科学部
准教授 壁谷英則
(2017/9/4 掲載)

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