The Japanese Society of Veterinary Science
 
Q&A >野生動物・動物保護・仕事について
Q:疥癬症のタヌキへの対応について

 はじめまして。
Q&Aの「タヌキのかいせん症について」を見ました。
まさに先日、かいせん症のタヌキを家の前で目撃し、いろいろな所に問い合わせました。
Q&Aの通り、県の担当部署に問い合わせましたが、「かいせん症のタヌキは、保護をしても獣医さんが受けてくれない場合が多いので、保護できたとしても、何も出来ずにまた放すことになる」との回答でした。
行政も獣医のせいにして何もしてくれないので呆れましたが、もしその事実が本当なら、獣医師にもあきれます。動物を助けるのが獣医師の役目ではないのでしょうか?それなのに、かいせん症は犬にも感染するとかいう理由で受けてくれないなんて、、、
何のための獣医師なのでしょうか。
もう私が見たタヌキは誰にも助けてもらえないようです。痩せ細って本当に見ていられない状態なのに。
獣医師がそんな考えなんて本当にショックです。
動物を助けるとか綺麗事のように言って、金儲けしか考えてないのでしょうか?みんな獣医師はそんな考えなのですか?
一般人の私達にはこうして訴えることしかできません。悔しいです。
こういうメールを送ったところでどうにかしてもらえるなんて期待は全くありません。
うちに言われたって、、、とお思いか、事務的な対応しかしていただけないでしょう。
ただ、この事実を知っていただきたく、メールしました。
人間がこんなに動物に対して冷たいとは思いませんでした。

2013/3/15

お答え

 お住まいの県の担当部署に問い合わせされた結果,「かいせん症のタヌキは、保護をしても獣医さんが受けてくれない場合が多いので、保護できたとしても、何も出来ずにまた放すことになる」という回答に不満を感じられたようですね。
以下に,当該県の対応体制と私の意見をまとめてみたいと思います。
県の対応は,「傷病野生鳥獣については、指定診療機関で治療し元気になったら自然の中へ放つようにしています」となっています。また,同県の獣医師会では,「保護診療施設については、県獣医師会もしくは県の担当課にお問い合わせ下さい」としています。
したがって,基本的には,指定の動物病院が対応していることになりますが,同獣医師会では,「野生鳥獣の種類によっては診療ができない場合がありますので、必ず事前に保護動物の診療ができるか、各診療施設にご確認してください。」ともしていますので,診療するかどうかは,各診療施設の方針に委ねられます。
疥癬症のタヌキを発見したとき,1. 保護する必要があるかどうか,2. 保護できるかどうか,3. 受け入れ先があるかどうか,4. その尊い命を生かすためにはどうすればよいか,が課題になります。県としては,実情を踏まえ,「積極的に保護しても受け入れ先がない」と判断されたものと推測されます。この事例で見えてくる課題としては,公益事業として,傷病鳥獣を救護して自然に帰す,さらには環境保全に還元する(=傷病鳥獣のリハビリテーション)専門施設と専門家が確保されていないことと考えられます。
近年,野生動物から人やペット・家畜に感染する病気がより問題視されるようになり,ペット・家畜の診療施設でもスタッフや患者を守るため,衛生管理(バイオセキュリティ)を強化し始めています。
私の考えでは,もし自分の飼っているペットを動物病院に連れて行くとしたら,野生動物の感染個体を取り扱える専門的な診療施設やバイオセキュリティ対策を整備していないのにも関わらず,同じ命なのだから助けるべきとして傷病鳥獣を受け入れる獣医師には不安を感じます。
傷病鳥獣の救護は,「やるならやる」,もしくは「やらない」,いずれの立場も専門性を発揮しており,正しい考え方と思います。「野生動物を受け入れない」という方針を示している獣医師は,自らが助けるべき患者を一番に考えている(命を守っている)わけであり,決して野生動物の命を軽視しているわけではないはずです。
救護原因の多くは,人為的な要因であり,目の前の弱った命を助けたいという優しい気持ちはすばらしく,尊敬に値します。一方で,生態系の中では,同じ種の仲間から見れば,感染症にかかった個体が集団から離れることでその脅威から免れることになりますし,他の生き物から見れば,その命を必要としている命があるでしょう。疥癬症のタヌキの例で言えば,カラスやシデムシなどがそうでしょう。彼らもタヌキと同等にすばらしい生き物たちです。人やペットでは,健康管理を徹底し,死は避けるべきものとして考えられますが,自然界では,生命は別の生命に引き継がれ(生命循環),死は生と等しい価値があります。このように,生命に対する倫理観に加え,環境に対する倫理観を踏まえた上で,そっと自然のままに任せることも,決して冷酷ではなく,温かい心ではないでしょうか?
今後,この地球上に棲む尊い野生動物が健康に生き続けられるよう,私たちは目の前の弱った生命を「どうすれば救えるか?」(個体の救命)に加え,「どう活かしていくか」を整理して本当の意味で救って行く(地球の健康管理)必要性があります。一つは,その一個体の命を生物多様性や生態系の保全に活かす=環境評価や原因除去(診断と治療),さらには,野生に帰せなかった個体を動物園などで飼育展示して現状を知ってもらう=環境教育(予防)などにつなげていく視点が重要です。そのためには,地方自治体,獣医師会や獣医系大学はもちろん,国民と国全体で考えていくべき課題と考えております。
貴重なご意見を頂き,ありがとうございました。現状の課題をしっかりと認識し,伝え,行動に移し,今後の対応に活かして行きます。

福井大祐(酪農学園大学附属動物病院,日本野生動物医学会認定専門医)

日本獣医学会事務局
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