人獣共通感染症(第14回)8/21/95
エボラの宿主探し

 
 今日のジャパンタイムスにワシントンポストの記事として以下の解説がありましたので、ご紹介します。著者はデイビッド・ブラウンDavid Brownです。

「小型齧歯類が疑われている:エボラの起源についての調査が進行中」

 ザイールでのエボラ出血熱の最終死亡総数は232人の人間と2、200匹の小型動物および15、000匹の虫となった。

 この春に感染した人間の78%を殺したエボラウイルスであるが、人以外の犠牲者は死んでいない。動物と昆虫はわなでつかまり、ガス殺された。それにもかかわらず彼らの死は、そしてとくに彼らの死体は、人の犠牲者での研究では不可能な決定的な疑問に答えてくれるかもしれない。

 人はエボラウイルスの自然宿主にはなりえない。ウイルスはあまりにも急激に人を殺してしまうので、人は永遠の信頼できる宿主にはなれないのである。ウイルスは別の生物の中で生存し、時折、飛び出して人への感染を起こす。人の間でウイルスは時や幸運、または医学的な対策が伝播の鎖を絶ち切るまで人から人へと伝えられる。そして消えていく。 

 人での流行のない間、ウイルスはどこにいるのだろうか?

 これこそエボラウイルスについてまだ答えが得られていないもっとも重要な疑問である。アメリカ、ヨーロッパ、アフリカの科学者のチームは流行で助かった人達が完全に回復する以前から、この回答を求め始めた。

 ウイルスにとって隠れ家となる場所は実際には無限である。エボラウイルスの隠れ家を探している科学者達はこのことを良く知っている。そこで彼らは最初にウイルスが出現したと考えられる場所を探し始めた。

 5月6日、CDCは西ザイールのキクウイトでの流行を耳にした。(血液サンプルを受け取ってから13時間以内にCDC科学者は病気の原因がエボラであることを証明した。)流行はその後ピークを迎え、そして終息に向かった。

 流行が認められた直後にザイールに到着した疫学者チームは感染の鎖をたどって、最初の感染者にたどりついた。それは42才の農民で、40万人の人口のキクウイトの郊外に住んで炭焼きを行っていた。

 「これはすばらしい疫学の成果と言いたい」と疫学者のひとりアリ・カーンAli S. Khanは述べている。「だが、基本的には私はただ最近の数か月の間に異常な数の死亡がどのあたりでみられたかと聞いただけです。」

この炭焼き人は1月6日に発病し、1月13日に死亡した。3月9日までに彼の家族の12名が死亡し、その中には彼の妻と6人の子供のうちの2人が含まれていた。病気になった人はすべて死んだ。

 生態学的な観点からは炭焼き人の作業場所にはいやになるほど沢山の生物がいた。畑、小川、沼地、一部切り倒された林、そして森林があった。そしてそれぞれに特有の植物、動物が。研究者達は或る程度調査の焦点をしぼらなければならなかった。

 植物ウイルスが直接、人に感染を起こすことは知られていない。「我々は植物説のドアを閉めた」とザイールでのCDCチームリーダーのC.J.ピータースは述べた。「我々はドアは閉めたが、鍵をかけたのではない。」

 以前の流行の際の調査でウイルスを人へ伝播した候補に鳥は考えにくいことが示唆されていた。また、ウイルスは爬虫類では増殖しない。

 一方、小型哺乳類には期待が持たれた。実験用マウスはエボラウイルスに実験的に感染させられる。しかし死亡はしない。収集チームは炭焼き人の働いていたそれぞれの地域に350個のわなを仕掛けた。ニワトリと齧歯類の死体が食肉類をさそう餌に用いられた。夕方には何回か、目の細かいかすみ網をはってこうもりを捕まえた。

 齧歯類、じねずみ、ひきがえる、とかげ、蛇はほとんどのわなで捕まった。紙製スーツ、手袋、防護用ヘッドギアを身に付けて科学者達は麻酔ガスでこれらの動物を殺し、野外で解剖した。ひとつの種で150個体が取れた後、余分の動物は放してやった。

 通し番号、推定種名、日付、わな番号、場所をそれぞれのサンプルに付け、血液、肺、肝臓、脾臓、腎臓をそれぞれの動物から採取しCDCに送った。防腐剤を加えた死体はベルギーのアントワープに送り、そこで分類学者が2500匹の脊椎動物サンプルについて正確な種または亜種の同定を行うことにしている。

 炭焼き人の作業場所と家からは多量の節足動物が集まった ー 蚊、ぶよ、だに、南京虫、しらみ、つつがむし、のみなど。

 CDCの高度隔離「バイオセイフテイレベル4」実験室ではこの膨大な死んだ動物園を相手にエボラウイルス探しが進行中である。

 科学者達はまず血液サンプルについて抗体を調べる。それがあれば動物がウイルスに暴露されていた証拠になる。しかし、慢性感染では抗体産生のための免疫系が刺激されないこともある。

 結局、脊椎動物と節足動物の組織をすりつぶして生きたウイルスの存在を調べることになる。すりつぶして作った乳剤を細胞培養に接種してウイルスを増やすわけである。ウイルスDNAの指紋を同定する手段であるPCR法を利用して、組織サンプル中のウイルス遺伝子の検出も行うことになる。

 第2グループの研究者達はもっと離れた場所で少数のサンプルを集めている。この冬には第3陣が炭焼き人が発病した季節に多くみつかる動物種を集めることになっている。

 現在のサンプルをCDCがスクリーニングするのに約3か月かかるだろう。そして回答ではなく、ヒントだけが得られるかも知れない。

 ピータースによれば「この勝負でエボラウイルスの宿主がみつかる確立はフィフテイ・フイフテイ以上とは思えない」とのこと。

私からの追記
 最近、発展途上国でのウイルス病の影響についての国際会議(第5回)が南アフリカで開かれ、そこで前述のピータースがエボラウイルスとコロブスモンキーred colobus monkeyとのつながりについても調査を続けていると話しています。もっともあまり証拠はないが、ザイールの医学生達の間でうわさが流され、ラジオでも報道しているためだともいっていますが。

Kazuya Yamanouchi (山内一也)






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